- エジプト発祥の中東舞踊「ベリーダンス」
ベリーダンスは、世界で最も古い歴史を持つエジプト発祥の民族舞踊です。骨盤や横隔膜を操って腹部（おへそ）を波立たせる様子が特徴的であることから、欧米人によって「ベリー（お腹）ダンス」と命名されました。一般的によく知られているオリエンタル・ベリーダンスは、女性らしい優雅な曲線美を全身で表現する大変エレガントで情熱的なダンスです。

- 現在のベリーダンスとその発祥
具体的な発祥を示す記録が残っていないと言われるほど、古くから存在していたとされているベリーダンス。エジプトにはその起源を表すような壁画や丸く豊満な女性のボディをモチーフにした土偶が多数見つかっています。五穀豊穣をもたらす母なる大地や女性賛美（母体信仰）への信仰から生まれたという説がよく知られていますが、現在は祈祷や宗教的な意味合いはほぼありません。オリエンタル・ベリーダンスは、女性が女性のために踊ることで受け継がれてきた歴史から、女性の魅力を表現することにかけては他の追随を許しません。魅力的なアラブの旋律とリズムに乗ってステージに登場するダンサーのきらびやかなコスチュームやヘアメイクも大変魅力的です。近年は男性の活躍も目覚ましく、振付け師のみならず日本においても男性の愛好者が増えています。

現代のオリエンタル・ベリーダンスは中東地域の重要な観光資源やエンターテインメントとして認知されています。エジプトのナイル川を走る観光客向けのクルーズ船やシャルムエルシェイクのようなビーチリゾート地では、生バンドの演奏に合わせて世界中で人気のマスターティーチャーが出演するステージを楽しめます。ベリーダンス愛好家を集めたフェスティバルがいくつも開催されます。
とはいえ、イスラムの宗教的な考え方もあり、女性が踊ったり歌ったりすることを禁止する国や地域もあります。プロとして活躍しているとはいえ、ベリーダンサーという職業を良く思わない人もいれば、ハレの日に余興として登場するのを楽しみにしている方も沢山います。アラブの人々は、音楽や踊りが本当に好きなのです。

本場のプロダンサーの中には女優や歌手、実業家として成功している方も多く、一晩でエジプト人の一般的な年収を稼ぎ出すダンサーも。特にウエディングパーティーにベリーダンスが欠かせず、現地のダンサーやミュージシャンにおいてパーティーは貴重な収入源であるだけでなく、人気のバロメーターとして重要視されています。ザッファ（Zaffa)と言うリズムが特徴のマーチングソングに併せて、シャマダン（燈台）を頭に載せたダンサーがサガット（フィンガーシンバル）を打ち鳴らしながら新郎新婦を引き連れて入場するなど、賑々しい演出で盛り上げます。

- 現在のベリーダンスショー
ベリーダンスショーでは、真っ先に踊られるメジャンセ、映画音楽としても愛されきたアラブ黄金時代の楽曲、同じフレーズを何度でも繰り返して聞かせて高揚感を煽りつつ起承転結に溢れたクラシカルな楽曲、ラップソングのように韻を踏んだ歌詞や、まるで演歌のようにコブシを効かせて高音で歌い上げるシャアビ（ポップソング）、タブラ（ダルブッカ）というアラブ発祥の太鼓だけで演奏される曲などが特に好まれています。また、同じコスチュームを着ていても、エジプトやトルコ、レバノンなどで昔から踊られているスタイル、ロシアやアルゼンチンのパワフルなムーブメントが特徴的なスタイル、舞台用に一糸乱れぬ舞台ダンスなどその表現は日々進化しています。また、一般的なベリーダンスとは違い、ストリートダンスやインド、スペイン、コンテンポラリーなどの異文化を取り入れたフュージョンスタイルは日本でも人気があります。

そして、ぜひ知っておきたいのが中東のフォークロアダンスです。広大なエジプトには各地域ならではの民族的なリズムや個性的な拍子のリズムがあり、どれも違った魅力を放ちます。中東各地域に存在するフォークロアダンスはとにかくバリエーションに富み、風習や生活を感じさせる内容で小道具も非常に多彩です。それぞれに決められた衣装や雰囲気があり、ハンドモーション、ステップ、リズムで踊り分けます。例えば、長く伸ばされた髪を小道具として使う踊りの場合、金銭的に裕福な地域で踊られるハリージとロマダンサーが踊るカウリーヤでは、髪の振り方が全く異なります。他にも、男性が延々と高速旋回しながら極彩飾のスカートやベストを脱ぎ、即興で小道具として扱うタンヌーラという演目などもあります。観光客向けのステージでは、フォークロアダンスは必ず演目に取り入れられています。

- 日本におけるベリーダンス
ところで、日本にはどのようにしてベリーダンスが輸入されたのでしょうか。実は、本場のエジプトからではなく、アメリカを経由して輸入されました。1980年代に日本で初めてのベリーダンス教室が開講されましたがその少し前、1970年代のアメリカでは、ヒッピームーブメントやウーマンリブ運動など、女性解放を高らかに謳うムーブメントが大変な盛り上がりを見せていた時期でした。これらの思想にベリーダンスの一つの側面である、ソロで即興で踊り、型にはまらない自由な表現に非常にマッチしたことから、このムーブメントに牽引されるように世界中でその存在を知られるようになりました。
世界中で開催されているコンペティションで優勝する日本人やキッズダンサーなど、日本でも愛好者の裾野はまだまだ広がっています。単に妖艶さだけがフォーカスされがちだったベリーダンスのアート性を広く紹介できるスキルとキャリアを持った日本人ベリーダンサーが増えてきているのは間違いありません。また、ベリーダンスジャパンという日本で唯一のベリーダンス専門の季刊誌もあります。

- 自宅で楽しむベリーダンス
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